現代社会の理論―情報化・消費化社会の現在と未来 (岩波新書)

現代社会の理論―情報化・消費化社会の現在と未来 (岩波新書) の詳細

・現代の資本制社会を、情報を用いて需要を創り出すことによって、需要が必要から解放された自立的なシステムであるという理解を示し、自由な社会であること、美と魅力の競争があることから、ひとまずその相対的優位性を肯定している・その上で、そうした情報化・消費化社会の限界について、自然の限界やシステムが生み出す「貧困」という限界があることを指摘する・資本制社会を前提としながら、そうした限界を乗り越えるために、「消費」「情報」の「コンセプト」を転回することを提言している・消費を、商品の購入ではなく、「消尽」「生命の充溢と燃焼」のように理解する・情報を、どのように捉えるかについて、必ずしも明晰に論じられているとは言えないのだが、手段的功利的な情報だけではなく、非物質的なもの、測定できないもの、かけがえのないもの、知と感受性と魂の深さの領野に向けられたもの、という捉え方を重視しているようである・「情報」を価値の源泉として、価値の無限空間、自立した消費システムを構想するとした場合、「消費」の概念の転回（「消尽」）に情報の概念の転回を合わせようとしているところがあるのだろう・現代社会を「情報化」「消費化」社会として捉える視座と共に、そうした「消費」「情報」の概念理解の転換という非常に原理的な部分の視座を提示しているところに意義がある・ただ、そこで提示された「コンセプト」は、あまり明晰な説明がなされておらず、「充溢」とか「知と感受性と魂の深さ」とか、あまり言語化できておらず、何かのイメージが先行して生じているが、十分にこなれきっていないような印象を受けた（言語化できない快楽に、人間の生やこの社会を支える快楽があると言われればそれまでだが）・そのイメージの豊饒さがうらやましい・ただ、概念の原理論の問題とは別に、資本制社会の限界の「乗り越え」の試みとして、それらの概念の転回を説いていることには、若干の違和感がある・一言で言ってしまえば、「情報化」「消費化」社会といった資本制社会の、ある種の矛盾、限界を、「情報」「消費」という概念を突き詰めることによって乗り越えが可能であるとは思えず、その点ではナイーブさを感じる・コンセプト、方向性として言いたいことは分かるのだが、この世界の、いわゆる下部構造は圧倒的な存在感がある。生活し、マテリアルな部分と関わることに、様々な悩み、苦しみ、そしてささやかな喜びがある・そうした下部構造に、特に「情報化」が関わることができる範囲は非常に限定的であり、それは昨今のように、先進国内においても食糧や資源の価格の高騰が見られ、生活することの重苦しさがいよいよ感じられるようになってくることからも予感されよう・端的に言うと、著者の摘示した資本制社会の限界問題と、概念理解の転換という処方箋とは、距離がある・著者自身も、コンセプトの提示に留めるとしており、結局、適切な政策を組み合わせるしかない、という楽観的な見通しを示しており（１５１頁）、それ自体は、原理論を耕すという学者の分を弁えているからいいのだが、原理論と政策との間の距離に目を閉ざすとしたら、あまり誠実ではない気がする・そこに向き合わないと、恵まれた人が、空理空論を振りかざしているな、という批判を免れない気がする・そうはいっても、消費の意義の転換自体は意味のあることだろうか・著者はバタイユの議論を引いて、消費すること自体の、無効用的な行為を、基本的に肯定する立場のようである・「生命の充溢と燃焼」といった言葉は、何か祝祭的な、生へのあこがれを引き立てるようなコンセプトではある・しかし、普段あまり消費をしない立場からすると、いわば刹那的な快楽原則を、社会の中心に据えると言われてもなあ、という気がしないでもない・色々な留保をつけたが、消費化社会、情報化社会、という我々の生きる社会に、一定の視座を与えてくれることは確かであり、一読の価値がある。21世紀初頭の歴史を反映した、著者の言う「豊饒化された増訂版の公刊」がなされたならば、読んでみたい