アンクル・トムの小屋〈上〉 (1967年) (旺文社文庫)

アンクル・トムの小屋〈上〉 (1967年) (旺文社文庫) の詳細

『アンクル・トムの小屋』という作品は、子供向けの絵本くらいの認識だったのですが、まったく違いました。アメリカのアフリカ系奴隷の人々がいかに非人間的な環境に苦しめられているのか、その現実を初めて告発し、現実の世界に大きな影響と与えた歴史的な文学作品でした。リンカーン大統領が、本書を「南北戦争を引き起こした本」と賞賛したことは有名です。また怒り、悲しみだけではなく、読み終えると、大きな感動にも包まれる本でもあります。以下、印象的な箇所の引用です。−−−−−−−−−−−−−−−−−−作者は、まさにこの時、何千人もの心を引き裂き、何千人という家族を損ね、よるべのない傷つきやすい人々を逆上させ絶望にかりたてた苦悩と絶望の現実の、ただその弱々しい影、さだかならぬイメージを描いたにすぎない。生き残っている人々で、この呪わしい人身売買のため自分の子供を殺し、自らもまた、この死より怖ろしい悲惨な現実からの避難所を死のなかに求めた母親たちを知っている者がいる。アメリカの法律や、キリストの十字架の陰に隠れて、わが国で毎日時々刻々に起こっている恐ろしい現実に匹敵する悲劇は書くことも、話すことも、表現することもできない。アメリカの男女諸君、事態はいいかげんに考えたり、謝罪したり、黙って見過ごしてよいことだろうか？冬の夕べの炉辺でこの本を読まれるマサチューセッツ、ニューハンプシャー、ヴァーモント、コネティカット州に住む農夫たちよ、はたまた気丈で、寛大なメイン州の船乗りや船主たちよ、あなた方はこの事態をよいことだとして奨励できるだろうか？ニューヨークの勇敢で、心の広い人々よ、金持ちで陽気なオハイオの農夫たちよ、はたまた広大な大草原州の住人たちよ、答え給え、あなた方は、この事態を維持したり、促進したりする気になれるのか？それにまた、アメリカの母親たちよ！（中略）あなた方の子供の病気、忘れられぬ瀕死の眼、助けてやれぬことも救ってやることもできぬときに、あなた方の胸をしめつけたあの最期の泣き声、空になった揺り籠の荒涼たるイメージ、あのしんかんとした子供部屋、そういうものにかけて、お願いする。アメリカの奴隷取引によって、常に子を奪われてきた母親たちのために祈られんことを！アメリカの母たちよ、こんな現実を弁護したり、それに共鳴したり、黙って見過ごしたりしてよいものだろうか。（中略）キリスト教徒らよ、あなた方は、これらの貧しい、不幸な人々のために、何をなすべきか？キリスト教徒と称する人々は、アフリカ人に対して、アメリカ人が行ったアメリカの悪事を償うために努力をするだけの負い目がないだろうか？教会の門や校舎が、彼らに対して閉ざされていいものだろうか？各州が立ち上がって、彼らを追放すべきだろうか？キリスト教徒は、彼らに投げかけられる嘲りを黙って聞いたり、彼らが助けを求めて差し出すよるべのない手から身を退けたり、われわれの境界から彼らを追い払う残虐さを、沈黙によって奨励してよいものだろうか？もしそうであるなら、それは悲しむべき光景となろう。そうであれば、国民の運命がたいへん同情心に厚く、心のやさしい御方の手にかかっていることを想うとき、その国はうちふるえることになるだろう。下巻 pp. 419-422